足りないのは尺か、親切度か - 『裏切りのサーカス』と『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』

映画『裏切りのサーカス』を映画専門チャンネルでいちど見たことがある。序盤が終わろうかというところで一緒に観ていた父が振り返って言った。「これの意味わかる?」
まったくわからなかった。英国が大好きだから観たのに、すごく英国満載の映画なのに、途中で離脱した。敗北の夜。

それから幾年たち、『ダンケルク』によって英国愛を呼び戻された私は、思い立ってこの映画もきちんと観ることにした。理解が及ばないのが嫌なので、今度は原作の『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』から入ったよ。原作のほうが実は興味あったので(好みドンピシャじゃない本って読み始めるタイミングとかつかみにくかったりしません?)、やっとページをめくる気になれてよかった。これも隠れたダンケルクの功績である。

原作を読むにあたっては、映画のキャストのうち顔がわかる俳優を当てはめて読んでみた。これがもう大正解で、どの人物にも背景や特徴がいっぱいあって、また一人一人に対して主人公のジョージ・スマイリーがいろんなエピソードを持っているものだから、かっちりと人物像を固めていないとこの話が誰に属してるのかを紐付けしづらいのである。おまけに敵も味方も偽名がわんさかあるしね。映画の主要キャストはとてもはまり役だと思う。マーク・ストロングが監視されてる事に気付きながら焦りもしないのを想像するとかっこよすぎるし、切れ者で組織のトップ的存在なコリン・ファースはセクシーだし、そんなコリンに見下されるベネディクト・カンバーバッチさんは絵が完璧。極め付けは神経尖らせて敵意むき出しのトム・ハーディ! そしてどのページにもゲイリー・オールドマンがいるので、脳内が豪華でした。トビー・ジョーンズは顔だけで説得力あるからずるい。

文庫本で530p超え。証拠をつかむために資料を読み漁り、それを補う回想を重ね、そして当事者たちの話を聞いて裏付けする、そのながーいながーい道のりを経たあとにはすんばらしい読後感がありました。真実を突き止めるスマイリーも、嘘をつき続けるもぐらも、愛のこととなると小さなほころびが出てくる。ソ連側の情報部の黒幕「カーラ」とスマイリー、もぐら、そしてもぐらの正体を隠すため犠牲になったジム・プリドーの証言と思い出が絡み合って、もぐらの正体が見えてくる。その過程に省略がなく、ひらめきだけで進むわけでもなく、じっくりとスマイリーの理性が働く様子がかかれているので、読んでいるだけでこっちの頭もめまぐるしく動いているようでした。
そうやってスマイリーの推理に一緒に付き合い続けているので、終盤に身を隠しながら教師をやってるプリドーを、スマイリーが訪ねるシーンは感動しっぱなしでした。長く寄り添った分だけじわじわくるものも大きくなりますね。

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というふうに楽しく原作を読み終えたので、いざ映画リベンジである。
映画の内容をまったく覚えてないとばかり思っていたけれど、トムハがソ連の女性をみつけるシーンと腸が出てるシーンは覚えていた。印象的な絵がたくさんありますよね。サーカスのトップが集まるコンテナみたいなお部屋もかっこいい。

とはいえやっぱりわかりにくかった!1シーンごとに割いてる時間があまりにも少ないのが原因かな。シーンが変わったと思ったらすぐ次のシーンに移って、「あとは行間読んでね!」ていわんばかりの場面が所々あって、「????」が積み重なって果てはつまんない、と感じてしまいます。しかもその激しい移り変わりは序盤にまとまって出てくるのだ。どうりで出鼻をくじかれたわけだな…と思いました。
プリドーが撃たれたあと隠れてこっそり教師やってるよ、なんて、あれだけで理解できるひといるかな?
回想シーンに切り替わる時も、今は回想してるのねって観ていてわかんないのでさっきの続きなのかなって勘違いしたまま進んでしまうのだ。

こんなかんじの不親切な映画、ほかにもある。ハリーポッターシリーズである。
どちらも本を読んでいないと「今あの場面のシーンだな」ってわからないのである。原作のエピソードをきちんと盛り込むために映像はさみました、っていう感じがしちゃうのだ。
どちらにも共通しているのは原作が長編だ、ということで、もしかしたら映画というフォーマットの尺に無理があるのかもしれない。ティンカー、テイラーは連ドラ版もあるみたいで、その方がひとつのエピソードに時間を割けるから、より丁寧に映像化できているのではと推測します。

なんてグチグチしてしまうくらい、もったいないのである!最後もぐらが判明するシーンが「うん、へぇ、そうか」くらいのインパクトしかないのですよ。もっともっと相手の手強さとかポジションとかを裏付けるシーンがないと、カッコつけに説得力がないのよね。俳優の本格っぽい雰囲気だけで最後までかけぬけた感じでした。カンバーバッチさんの役は感情的すぎるよなあ。諜報部ってもっと冷静じゃないとダメじゃないのか?

というわけで、本を読まずにいるとわからないが読んでから観るともったいなさが凄まじくじれったい、という検証結果でした。しかし、もし映画がちがったかたちで出ていたらそれに満足して原作読まなかったかもしれないので(現に白鯨がそんな感じ…)、読むきっかけをありがとうという気持ちです。どっぷり浸れてよかった〜


珍しくロン毛のトムハらくがき!