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その面白さが分かる私だろうか ー 『偏愛ムラタ美術館』

偏愛ムラタ美術館
偏愛ムラタ美術館
posted with amazlet at 17.03.19
村田 喜代子
平凡社
売り上げランキング: 800,530

一人のエピソードが終わるたび打ちのめされるというか圧倒されるというか、深い味わいを堪能するような本だった。私が絵を描くと知っている職場のおぢさまが貸してくれた…というより強制的なレコメンドだったのだが、自分では絶対手に取らないタイプの本だけに抵抗感が先行してました。でも読んでよかった。続きも借りてあるのだよね!

本書は、小説家の著者が雑誌で美術作品について語っていた連載から、王道ではないユニークな作品を扱ったものだけをまとめている。ほとんどの絵は構図とかデッサン等の知識を持たない画家のもので、抽象っていうより落書きでは?とか、おじいちゃんの絵すごいけど、技術的に普通じゃない?とか、普段なら目に留まらないし、良いと思わない作品が多い。
でもぜんぶ面白く見られたのは、紹介する著者自身がとっても楽しそうだからだ。時代背景や画家の生い立ちを踏まえたりしながらも、文章の核は「私がこの作品のどこをどう楽しんでいるか、どこにうきうきしたか」という点にある。著者が一人でとっても楽しそうに絵を眺めている。だから読み手は「なになに?教えて」と気になって仕方なくなるのだ。また、本書に選ばれた画家が描く絵は、その人たちにしか描けないものばかりで、絵がまさにその人の存在そのもののようで、エネルギー量がとんでもない。だから、つられて覗くうちに夢中になって、圧倒されて、アウトプットの衝動が高まる。

改めて思ったのは、絵って「描こうという思い」が全てだなということ。落書きと落書きみたいな抽象画の違いをはっきり言えはしないけど、抽象画には「こういう絵を描こう」という画家の思いがある。それがアートとそうでないものを分けるものなのかな…とぼんやり思った。一般的なイラストにある「へたうまの基準」は、画家の発想よりもっと下位に存在する価値基準なんだろうな。美術鑑賞って基本的に好きか嫌いかだけの判断でいいんだろうけど、全然分からないものを放っておくのもモヤモヤする。今回は著者の導きで豊かな経験をしたけれど、ユニークな絵にばったり出会って、ひとりで価値を見出して楽しめるだろうか。そして、そんな強くて熱い独自の発想を持った絵を、私も描けるようになるだろうか。力の入った絵の図録や著者の豊富な語彙力に触発されて、いろいろ考えます。

美術作品に対してどんなスタンスでいればいいのか未だにぜんぜんわからない。パッと見ただけではやはりかっちり完成された、現実から乖離しない絵を好んでしまう。理解がしやすくて、華々しいやつを。そこから飛び出てもっと自由に見られたらいいな、と思う私にぴったりの本でした。

それにしても車勝吉の自画像は泣ける。あと山本作兵衛の炭鉱の絵が、人体デッサン完璧でおののいています。すごいなーすごいなー。